シューターの叫び
▼ 始めに シューティングはビデオゲームの王様です。いや王様かどうかはともかく、長 い歴史の中で絶えず生き続け、少しづつ進化(&深化)してきたジャンルです。 見た目的には余り変わっていないような縦シューでも、実はその中で面白さや遊 び易さが追求され、様式美とも言える完成度を確立しています。 シューティングは一見すると簡単に作れそうなジャンルなので、たまに新規参 入メーカーが見よう見まねでシューティングらしきモノを発売する事があります。 斜陽扱いされるこのジャンルなので新参者は歓迎したいものの、基本的なお約束 が守られていないために「面白いつまらない以前に遊べない」ものが未だに見ら れます(アーケードゲームでも!)。プロの作ったシューティングゲームですら このような状態ですのでアマチュアが作ったものは言わずもがな…と言いたいと ころですが、プロ並のクオリティの物も存在します。 ではそれらを隔てるものは何なのか?ワンランク上のゲームを作るために注意 しなければならない要件は?をここで解明していきます。 ▼ キャラクターの優先順位 XSPのスプライト/複合スプライトは表示に優先順位をつけることができま す。マニュアルによると ・BGテキスト0/1の上か下か ・その中での優先順位(0〜0x3f) を指定する事ができます。今回はBGテキストを使わないので優先順位のみを 考えます。優先順位の大きいスプライトほど上に来るように表示されます。「上」 というのは重なり具合の事で、「敵と敵弾が重なった時に敵弾が上に表示される ようにする」には敵弾の優先順位を大きくすれば良いのです。 優先順位という考えは概念的にもプログラム的にも簡単なのですが、実はゲー ムデザイン的には重要かつ難しく、深い考察が必要となります。そうしないとプ レイヤーから「弾が見えねえ!」という苦情が殺到することとなります。そこで ここでは優先順位について深く考えてみることにします。 (以下の例で「A>B」とある時は「AはBより上に表示される」ということ とします) ・敵弾>爆発パターン 基本です。敵弾は敵を倒した時に出現する爆発パターンより上に表示すべきで す。敵の爆発パターンに敵弾が隠れてしまい、見えない敵弾に当たってミス、と なると敵どころかプレイヤーの不満まで爆発してしまいます。これは常に守るべ き優先順位です。 ・敵弾>自機 これはちょっと気付きにくいのですが、現代シューティングではこの優先順位 が一般的です。現代シューティングでは当たり判定が極小で「少しくらい敵弾が かすっても死なない」ことになっています。この時、敵弾の優先順位が自機より 下だと「かすった敵弾が見えない」ため避けようがなく、結果的に当たってしま うことになります。昔だったら問題にすらならなかったような事項ですね。 ・ザコキャラ>自機  ザコが自機にかすった時も同様です。 ・自機>ボスキャラ ボスキャラも見た目通りの当たり判定でなく、見た目より少し小さめの当たり 判定にした時にはこうします。「ボスキャラにめり込んで撃ち込む」という通好 みのプレイをしたい人にはこの方が喜ばれます。 ・ザコキャラ>ボスキャラ 大きなボスキャラに隠れてザコキャラが攻撃を仕掛けてきたりすると困ります ね。突然ボスキャラの意味不明の場所から弾が出現したら…。ということでこの 優先順位になります。 ・ザコキャラ>爆発パターン  爆発パターンにザコキャラが隠されると困ります。 ・自機>爆発パターン  自機も同様。 ・爆発パターン>ボスキャラ これはプレイをする上では対した問題ではないのですが、ボスキャラが爆発す る時、その爆発パターンはボスキャラの上に表示された方が美しいです。この場 合、爆発でボスキャラが隠されることになりますが、 ・ボスキャラがは大きいので少しくらい爆発で隠されても見える ・ボスキャラ爆発時には画面上に敵キャラがいない事が多いので自機が 死ぬ可能性がない、もしくは低い  ことから問題ないでしょう。 ・自機ショット>ボスキャラ ショットを撃ち込んでいる時にこの順位の方が当たり判定がわかりやすくて良 いと思います。 ・自機ショット>爆発パターン 自機のショットは爆発パターンに隠されても実害はないのですが、一応この方 が良いと思います。 ・自機爆発パターン>自機  自機が爆発する時、その爆発パターンは上の方が美しいでしょう。  以上をまとめると優先順位は以下のようになります。 高い 敵弾  ↑ ザコキャラ  │ 自機爆発パターン 自機  優先順位 自機ショット 爆発パターン  │ ボスキャラ  ↓ 低い  これが今回採用した優先順位です。 ▼ 復活時の無敵時間 自機が敵弾もしくは敵に当たると爆発し、1ミスとなります。この後の処理で すが、ゲームデザインによって2通りに別れます。 1)ある程度まで戻される グラディウスやR−TYPEなどの方式です。パワーアップが重要なゲームの 場合、ミスした時に同じ場所に戻すことにより「復活パターン」を作成する楽し みがあります。 2)その場復活 ミスしたらすぐ下から自機が登場する。2人同時プレイゲームは基本的にこれ。 最近のシューティングゲームは営業的な要請からか2人同時プレイが義務づけら れているためほとんどその場復活です。  今回は1プレイ用ゲームですが、パワーアップがないため2)の方式とします。 2)の方式で重要なのが復活時の無敵時間。自機が画面下から登場した時にし ばらくの間無敵になるというものです。これが無いと復活してすぐミスという事 が起こる可能性が高いため、是非サポートする事をお勧めします。 ▼ 自機の当たり判定 現代シューティングゲームは敵弾の数を増やす代わりに自機の当たり判定を極 小にして、見た目の派手さや弾避けの爽快感を増しつつも難易度を以前と同様、 いやむしろ低い難易度にする事に成功しています。達人王よりも怒首領蜂の方が 難易度が低いのはこのためです(もちろん弾速が遅いのも関係しています)。 敵弾が自機にかすっても全然死なない事からプレイヤーが上手くなったような 錯覚を与えることができ、「シューティングは難しいもの」という先入観を払拭 することができます。プレイヤーの間口を広げるために有効な手段です。 ▼ キャラクターのデザイン 実はこんなところにも注意する必要があります。 キャラクターは当たり判定の判り易いデザインでなければなりません。当たり 判定は矩形または点または円で行う事がほとんどですから、当たり判定通りの形 状のキャラクターがベストです。…が、それだとデザイン上、大きな制約を受け てしまうため「複雑な形状でも当たり判定が判り易いデザイン」が望まれます。 例えば自機の中心にコアを置いて「コアに当たったら当たり」のようなデザイン が挙げられます。今回の『一本槍』はこの方式を採用しています。 また、「当たり判定はキャラクターの中心でなく重心に設定する」と納得のい く当たり判定になるようです。図をご覧下さい。 ● 中心と重心の違い=非対応メニューです 矢印のような形状の自機で、黄色いのは自機を中心とした32x32ドットの枠で す。このキャラクターの当たり判定はどこに設定するのが一番良いでしょう?  単純に32x32ドットの中心に設定するとどうも不自然なようです。どうやら図を 見る限りでは重心に設定するのが良いようです。当たり判定が点なら重心の1点、 矩形なら重心を中心とした矩形、円であれば重心を中心とした円に当たり判定を 設定すると納得度が高いようです。これは感覚的なものなのでこれが絶対とは言 い切れませんが、世の多くのシューティングゲームでも重心を採用しているよう ですので、まずこれで大丈夫でしょう。 ▼ キャラクターの色  普段ゲームをしていて気になることは少ないのですが、実はこれも重要です。 ・系統だった配色 基本は「違うキャラクターには違う系統の色を割り当てる」事で、これができ ていればほぼ問題ありません。逆にまずい例の方が判り易いでしょう。「金色の 敵が、薄いオレンジ色の弾を出して、金色のアイテムを落とす」など。これは、 見辛いですね。改善するならば、「青色の敵が、赤色の弾を出し、金色のアイテ ムを落とす」といったところでしょうか。 ちなみに『男弾』ではコアの色が赤/青で、これがゲームデザイン上重要なた め、敵弾は見分けのつき易い緑色にしています。 ・重要なキャラクターは目立つ色に これも逆にまずい例を挙げてみます。「背景が明るすぎて敵弾が見えない」 「爆発パターンが明るすぎて敵弾が見えない」「破片が明るすぎて敵弾が見えな い」「敵弾の色が地味すぎて見えない」などなど。 これを考えていく上では「見やすい色」「見にくい色」を把握しておく必要が あります。見やすい色とは「明るい」「彩度が高い(鮮やか)」色で、見にくい 色は逆に「暗い」「彩度が低い」色です。 では「重要なキャラクター」は何か。これは自機や敵、敵弾等、ゲームに直接 関わるキャラクターです。背景や爆発パターンや破片などは極端な話無くてもゲー ムそのものには影響無いため、重要なキャラクターを生かすためには犠牲になっ てもらいます。 キャラクターを作っていると、見やすい色は限られているため、様々なキャラ クターの中で見やすい色の奪いあいになってしまうことがあります。そこでちょっ としたテクニックを1つ。 小さいキャラクターに見やすい色を割り当てる  ということです。逆に言うと 大きいキャラクターは見にくい色でも十分目立つ という事実が挙げられます。ボスキャラなどを想像してみてください。重要な キャラクターではありますが、あれだけ大きければ十分見やすくなります。そこ で余った見やすい色は小さくて重要なキャラクター、例えば敵弾に割り当ててあ げましょう。 この辺は「色彩設計」と呼ばれる分野で、アニメーションなどでは(キャラク ターデザインとは別に)独立した役職が与えられるくらい重要な仕事です。これ をお座なりにすると見にくい画面になってしまい、「面白いつまらない以前に遊 べない」事になってしまうため、よく考えて設計する必要があります。 ▼ エントリー配置 敵キャラクターの出現パターンの事を俗にエントリーと呼びます。縦シューは このエントリーによって面白さが左右されるため、これは非常に重要な要素と言 えるのですが、これまであまり議論されてこなかったように思います。 面白いエントリーは何か…は難しい問題です。では逆に「つまらないエントリー」 を考え、この逆を採用するようにします。  つまらないエントリーとは、 ・タイミング的に単調 同じような敵が同じようなエントリーで出現するのはつまらないのを越えて苦 痛ですらあります。具体例を挙げますが、つまらない敵出現のタイミングをフレー ムで表してみると以下のようになります。 30,30,30,30,30,30,30,30,30,30,30,30,30,30,30,30,… 常に30フレームごとに敵が出現します。単調ですね。プレイするのが苦痛です。 ではこれに少し波をつけてみましょう。 30,30,30,20,30,30,30,20,30,30,30,20,30,30,30,20,… 4機ごとにちょっとだけ早く敵が出現します。敵が早く出現する=難易度が上 がるということですから、これで少しだけゲームにメリハリがついてきます。も う少し波をつけてみます。 30,30,30,20,30,30,30,20,30,30,20,20,30,30,20,10,… 波がつきつつ、だんだんその波が大きく=敵の出現が早くなっていきます。さ きほどの小さな波に加えて大きな波も感じられるエントリーです。 ・キャラクター的に単調 キャラクターが複数出現する時、同じ敵が連続して現れると単調に感じられま す。敵A/B/Cがいる時、 AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…  これは流石に単調です。先ほどと同様に波をつけてみます。 AAABAAABAAABAAABAAABAAAB…  こんな波もあります。 AAAAAAAAAAAABBBBBBBBBBBB…  少しメリハリがついてきました。更に大きな波を加えてみます。 AAABAAABAABBBBBBBBBCBBCC… AAAAAAAAAAAABBBBBCCBBBCC… などなど。もっと手を加えてみるのも良いでしょう。但し手を加えすぎると 「単に無秩序に敵が出現するだけ」になってしまうことがあるため注意が必要で す。 ・座標的に単調 常に画面の同じような場所から敵が出現すると単調です。これも同様に画面の 左上から、右上から、と波をつけて出現させると良いでしょう。ゼビウスの空中 物のように「常に自機の反対側から敵が出現する」ようにすれば自動的に波がつ くため、このような解決法でも良いでしょう。 但し自機に7WAYショット等、広範囲攻撃武器がある時は注意が必要です。 いくら出現に波をつけても、このような武器がある場合自機を動かさずに画面の 中心で弾を撃っているだけで敵を倒すことができてしまい、波どころではなくなっ てしまうことがあります。そのような場合は広範囲攻撃武器をやめる他、下記の ような解決方法があります。 ・固さ的に単調 これは「キャラクター的に単調」とほぼ同じですが、一撃で倒せるザコキャラ だけでなく、何発も撃ち込まなければ倒せない中ボスを適度に配置して波をつけ るという解決法があります。この方法を用いれば広範囲攻撃武器があっても中ボ スにかかりきりにならなければならないため、波をつける事が可能です。  結局、これらを総合するとつまらないエントリーとは、 ・難易度的に単調 である事が判ります。1面から最終面まで同じ難易度というのは論外ですが、 単純に難易度が上がり続けるだけというのも単調です。基本的に1面が一番優し く、最終面が一番難しいという大きな波を維持しつつも、その中で小さな波を作 っていき、小さな波と大きな波で「うねり」を醸し出せるようになればこれはも う一流のエントリー配置です。 ▼ これをやると嫌われる ゲームをプレイすると、オールクリアで無い限りプレイヤーはミスをします。 ミスした時に「これは自分のせいではなく、ゲームが悪いせいだ」と感じられて しまったら次からはプレイしてもらえなくなります。これを「ミスしたのは自分 の(プレイヤーの)せいだ」と感じさせるのがゲームデザイナーの腕の見せどこ ろです。ミスが自分の責任であれば、それを改善し次回のプレイに役立てること ができ、結果、プレイヤーは再びプレイしてくれることでしょう。  では「ゲームが悪い」と言われるのはどのような場合か列挙してみます。 ・画面が見にくい プレイヤーは純粋にプレイの腕で勝負したいと考えます。そこで画面の見にく さで難易度を上げるのは好まれません。 ・敵がいきなり突っ込んでくる 敵が画面外から高速に突っ込んできて体当たりされてミス、というのは納得い かないでしょう。昔はこのような敵は出現パターンを覚えて対処するのがセオリー だったのですが、最近は流行らないようです。 また、敵が画面の下から出現するのもこれに該当します。特に予告がない限り、 自機は画面下側にいることが多いですから、いきなり下から出現した敵に当たっ てしまうのは不満度が高いでしょう。 ・敵/敵弾が速い ・自機が弱い ・自機の当たり判定が大きい この辺になってくると本当にゲームのせいなのかどうか判らなくなってきます が、プレイヤーに嫌われないゲームを作るためには考える必要があります。 ではこれらを考慮して、プレイヤーが不満を持つ要素は極力排除したゲームの 姿を想像してみましょう。それは、 ・画面が見やすく ・敵がいきなり突っ込んでこなく ・敵/敵弾が遅く ・自機が強い ・自機の当たり判定が小さい これらを満たしたゲームです。そんなゲームは存在するのでしょうか? 実は 既に存在します。CAVEの怒首領蜂です。怒首領蜂は上記全てを満たしていま す。プレイヤーが不満を持つ要素を排除しただけでは非常に難易度が下がってし まいゲームとして成立しなくなってしまいますが、その分は敵弾の多さで補って います。うまいゲームデザインですね。 ▼ 撃ち込み感 シューティングゲームは「撃って、よける」ゲームです。これらの爽快感を追 求する事によりプレイヤーに「面白い」と思わせることが面白いゲームを作るた めの手段の一つです。よける爽快感は先ほど述べたように当たり判定を極小にす る事で得られますが、もう一つの柱である撃つ爽快感について考察してみます。 撃つ爽快感…これに密接に関係するのが「撃ち込み感」です。ショットボタン を押し、敵に弾が当たった時「当たった」…そうプレイヤーに感じさせるのが撃 ち込み感です。撃ち込み感は以下のような演出が一般的です。 弾が当たった時 ・敵が白く光る ・敵が振動する ・破片が散る ・撃ち込み音がする 敵が爆発した時 ・派手な爆発パターンを表示する ・破片が散る ・爆発音がする ・得点が表示される などなど。逆にこれらがまったく無かったら味気ないでしょう。撃ち込み感を 演出するため、ゲームに支障がない範囲でこれらを採用するのが良いと思います。 ▼ その他細かい点 ・固い敵 一般的に固い(耐久力があり、弾を何発も撃ち込まなければ破壊できない)敵 は嫌われますが、それは単に強いからだけではなく単調だからという理由も挙げ られます。 そこで耐久力100の敵を1体出すのではなく、耐久力50の敵を2体出すという 解決法が考えられます。また、同じ耐久力100の敵でも、耐久力が50になったら 攻撃パターンを変える等、変化をつけるという解決法もあります。耐久力の変化 により攻撃パターンが変わった、という事を明示するために『男弾』ではパーツ を外したり小爆発を起こしたりしています。(そうしないと時間で攻撃方法が変 わったのと誤解される可能性もあります) ・ボンバーの発動までのタイムラグ ボンバーのボタンを押したらすぐ発動する(自機が無敵になる、敵にダメージ を与える)方が喜ばれます。逆に発動までのタイムラグを活かすようなゲームデ ザインというのもアリでしょう。 (EOF)